アートコーディネーター
古谷晃一郎
《MUSE》
笹岡由梨子
グランフロント大阪 南館せせらぎテラス
♪えぇ〜パブリックアートって、皆さんご存知ですか?
東京だったら、六本木ヒルズにあるデカい蜘蛛《ママン》Louise Bourgeois(ルイーズ・ブルジョワ) 2003(1999年)。大阪だったら、大阪中之島美術館の屋外にあるネコ《SHIP’S CAT (Muse)》ヤノベケンジ(2021)。
この間 中之島美 に行ったら、《SHIP’S CAT (Muse)》の前でこんな会話をしてる親子がいました。
息子「おとうちゃん、このねこメス?」
父「そうかもな」
息子「名前は?」
父「名前?なかのしまこ(中之島子)や」
男の子「なかのしまこ!なんか、妹もいてそうやな」
父「妹?それやったら、なかのしまい(中之姉妹)や」
思わずメモるおかけんた
パブリックアートって、思わぬ発想が浮かんできたりしますよね。
大阪の うめきた広場 の水景内に2018年からいる 緑の熊 《テッド・イベール》 Ted Hyber -Coool (愛称:クール)Fabrice Hyber (ファブリス・イベール)も、「口からピューって水吹いてカワイイ」って人気。その北側にもう1点パブリックアートが、今年3月18日から展示されてるって知ってました?
ド肝を抜く斬新な映像インスタレーションで、鑑賞者の心を鷲掴みにする 現代美術家 笹岡由梨子 さんの作品 《MUSE》。

《MUSE》
笹岡由梨子
夜観るとライトが水辺に反射して、映えますよね。
この《MUSE》に コーディネーター として関わっているのが、古谷晃一郎 氏。
一見「アート好きが高じてアートをコーデネートするようになったんだぁ」と思われがちですが、実はそうではないようです。
古谷晃一郎 氏は大阪府堺市出身。祖母と一緒に、杉良太郎 主演のTV時代劇再放送『遠山の金さん』や『大江戸捜査網』を見る生活。他にも、千葉真一 主演『服部半蔵 影の軍団』などを見ながら 一人忍者 と化し、路地に潜んだり、天井を開けておやつを食べたり 修行ごっこ に明け暮れる、忍びの子供 。本は 移動図書館 で、 江戸川乱歩『少年探偵団』や『黄金仮面』などの 推理小説 。ジュール=ベルヌ『海底2万マイル』などの 冒険小説 などを愛読。
古谷「母親に 早く寝なさい!と言われては布団の中で懐中電灯つけて、本読んでました」
忍んでますねぇ。
中学校時代は友達の家に行って遊ぶようになり、TV版『スケバン刑事』の影響でヨーヨー遊びにどハマり。そんな中、ハリウッド映画が好きな友達がいて、初めて映画館で観た洋画が『ターミネーター2』。
古谷「映画ってオモロイなぁー と、夜中レイトショーとか観に行ってました」
高校では演劇部に入部。部員は 古谷 氏以外全員女子で、皆からチヤホヤされたそうです。興味も映画から演劇へと移行。役者デビュー!と思いきや、興味を唆られたのは 照明 や 大道具 の裏方。同級生が小劇場演劇のことを熟知していて、教えられるがままに 劇団☆新感線 や 劇団そとばこまち などの公演を鑑賞。
古谷「こんなに面白いのか!カッコいいわぁーと熱感にヤラれ、そこから 舞台照明をやりたい!と思いました」
というわけで、 大阪芸術大学 舞台芸術学科 舞台照明コース へと進学。「この脚本だったら、どういう照明を作るか?」などを学び、年に1回学内公演があったそうです。この当時1996年に旗揚げされた劇団『南船北馬一団』の照明も担当。大学卒業後、舞台照明会社へ就職。
そんなある日、南船北馬一団 に入ってきた後輩に照明をやらせてみたら、色使い、繊細さ、オペレーションと、ナントその後輩の方が上手かった!「これはこの子がやった方が劇団のクオリティは上がるなぁー、と」
古谷 氏はこの日を境に、劇団の照明をやめた。
さぁーどうする、古谷 さん。
古谷「作品のクオリティを上げる仕事とは?と考えた時、この仕事誰がやったらいいんだろうと隙間を埋めていくと、作品のクオリティは上がる。」
各セクションを繋いで情報集約したり、稽古場が快適になるよう調整したり、雑然とした楽屋を整えたりなど
如何にして気持ち良く仕事をしてもらえるか?
そういったマネージメントを乗り越えた部分を請け負い、足りていないものを整えていく。
気が付けば、劇団にとって唯一無二の存在となり、この当時ファッション業界以外ではあまり聞き覚えのない職種『コーディネーター』と名乗るようになります。
古谷「自分ができることとやりたいことは、求められているものとは違う。」
劇団で年3本の公演をこなし、コーディネーターとしてのニーズもあり、地歩を占めていきました。
夕方は劇団に関わり、土日は演劇鑑賞と万事順調。
がしかぁーし、腰を痛めてしまい、また退職。
さぁーどうする、古谷 さん。
古谷「旅に出よう!と沖縄の離島に行き、宮古島にハマりました」
やがて宮古島のゲストハウスの女性オーナーから「仕事がないなら、うちで働いてみたら?」と言われ、海水浴による腰やアトピーの治療も含め、ゲストハウスで働くことと相成りました。
腰もアトピーも完治し、宮古島のゲストハウスで約1年間働いた後、2002年に帰阪。なんばの輸入雑貨店でアルバイトをし、再び 南船北馬一団 でコーディネーターをしながら、空いた時間は小劇場演劇へ。だがこの時、あることに気付いてしまう。
古谷「観に来ているのは一般の方ではなく、関係者ばかり。なんて狭い世界なんだろう」
復帰後1年で劇団をあとにした。
一旦現場から離れることにより、現状を客観的に見ることができたんですね。
そんな中、大阪府立青少年会館/プラネット・ステーション の職員から「事業コーディネーターになってくれないか?」とお誘いがあり、2004年に演劇、音楽、美術、映像という文化の4本柱で青少年を育成する事業に従事。今まで演劇以外には関わっていなかったので、プラネットステーションでボランティアをしていた大阪芸術大学の学生さんから現代美術のことをいろいろ教わります。
古谷「実は以前にキリンプラザに行き ヤノベケンジ さんの作品とか観てたのですが、現代美術と認識せずに観てました」
それから東京で、野菜をマシンガンに模した作品などが展示されていた 小沢剛 氏の展覧会を観て、「美術ってこんなことやっていいの?」と衝撃を受け、大阪でギャラリーまわりをするようになります。
そこから茶室のインスタレーションなどを、ボランティアと共に制作。関西・大阪21世紀協会の業務では御堂筋パレードに関わり、2008年には、中之島でのアートプロジェクト『中之島は大きな帆船』では、井上信太 氏の『ふしぎな水鳥をつくろう』で、初めて現代美術作家と仕事をすることになります。
古谷「さぁ今から搬入だという時に、井上さんから ちょっと待ってほしい と言われて。それから2時間経って井上さんから やりましょう! とスタートしたのですが、事前にいただいてた図面とは違ってて。けどそれがめっちゃよくて、空間と作品をどう調和させるか?を考えてたんだなと気付き、演劇とは違うオモシロさを感じたことを覚えています」
2009年の「水都大阪2009」では、中之島のマンションの一室でアーティストの 中﨑透 氏と52日間、『中人(なかんちゅ)』という名の居酒屋的パーティー会場を開き、[裏 水都大阪]と皆から親しまれ、連日大盛況。
私もこの『水都大阪2009』では、火を噴くアート船 ラッキードラゴン で遊覧しながら ヤノベケンジ 氏とトークをしたり。椿昇 氏の『いろどる灯り ひかりぶねワークショップ』では、ひかりぶねの審査員をしたり。昭和の中之島周辺のモノクロ映像を鑑賞する企画のMCを務めたり。
そしてその仕事終わりにマンションの『中人(なかんちゅ)』にも行ったんですが、満席で入れませんでした。残念。
その後 古谷 氏は、様々な展覧会に足繁く通うことにより美術濃度が高くなり、2010年4月、大阪21世紀協会から独立。アートで街の魅力を引き出す公募展『おおさかカンヴァス推進事業』のチーフディレクターに就任。おおさかカンヴァス 終了後の2017年、フリーでやりつつも 大阪府立江之子島文化芸術創造センター(enoco)のスタッフとして5年間稼働。社会人大学のデザインシンキングの仕事や、大阪市立芸術創造館の1階で 文化芸術お悩み相談室『なにそうだん』などを経て、大阪万博50周年記念展覧会 のアート企画で 西野達 氏とも仕事をされています。
そして2024年夏、現代美術家の 笹岡由梨子 さんのコーディネーターとして グランフロント大阪 西側の 南館せせらぎテラス にて、パブリックアート《MUSE》 笹岡由梨子 を2026年3月上旬まで展示。





《MUSE》 笹岡由梨子
古谷「グランフロントには時計がない。京阪沿線の京橋駅に、ロケットに乗った男の子と女の子のからくり時計の作品があり、その時計のイメージが笹岡さんにはあって。1枚1枚12時間分、自分自身が時計の針となり、からくり時計のように画像が変わります。」
時計の裏には母親の顔がモザイクで表現されており、時間と記憶が閉じ込められています。そして 大阪梅田 は 万博 関連の企画が多い場所ということも相まって、1970年の『大阪万博』から2025年の『大阪・関西万博』による過去、現在、未来のビジョンまでもが浮き彫りになり、観るものにノスタルジーと希望を与えてくれる作品になっています。
古谷「今回、京都芸術大学の ULTRA FACTORY チームの学生たちが、献身的に関わってくれました。そういったことを思いながら観ていただくと、嬉しいです」
古谷 氏は『大阪・関西万博』では、1500本以上の木々が育つ静けさの森の会場での、オノ・ヨーコ、Leandro Erlich(レアンドロ・エルリッヒ)などの運営コーディネーター。大阪此花区千鳥橋駅 の 正蓮寺川公園アートプロジェクト では、川俣正 の街灯の作品《千鳥橋ライトポスト》 にも関わっています。

《千鳥橋ライトポスト》
川俣正

《千鳥橋ライトポスト》
川俣正
最後にパブリックアートについてお聞きしました。
古谷「大阪駅を通る度に《MUSE》を観に行くんですが、いろんな人に観てもらえることがうれしい。アートだと思わない人もいるけど、何これ?という反応があるのがパブリックアート!」
私が観に行った時、お母さんが子供の背中越しに「これ、時計やねんでぇ」と作品を指差し、説明している姿が印象的でした。
古谷「私はいつもそんな方々を、ビルの影からこっそり見ています」
子供の頃と変わらず、忍んでますねぇ。
いゃー、古谷さんにお話をうかがってたら、コーディネーターっていう仕事に憧れてしまいますよね。そんな思いをアート関係者に話したら、「けんたさんはコーディネーターじゃなくて、ムードメーカーでしょ」
・・・やっぱり。
梅田 にお立ち寄りの際は、是非とも《MUSE》がある 南館せせらぎテラス へ足を運んでみてくださいねぇ〜♬

古谷晃一郎
作品
《MUSE》
笹岡由梨子
『ART SCRAMBLE』プロジェクト2025
作品タイトル:MUSE
作:笹岡由梨子
制作年:2025年3月
展示場所:グランフロント大阪 南館 せせらぎテラス
歌: 池田真己
録音: 西村千津子
テキスト:Pawel Pachciarek
構造計算:株式会社タンデム
設計・施工: たま製作所 | 小西由悟・岩山夏己 ・木綿要介
マネジメント:古谷晃一郎
制作協力:
栗原悠次、小井帆乃実、小島麗美、原こころ、諸岡あゆみ、LIU JING、京都芸術大学 ULTRA PROJECT | 荒井美桜、諌山遥香、岡田友梨、須賀鈴之助、利倉杏奈、新海有紗、丸山和夏
京都芸術大学 ULTRA FACTORY | 浦田沙緒音・大島拓郎・大脇理智・佐々井菜摘・佐々木大空・徳山詳太郎・福田直樹
協力:京都樹脂株式会社、株式会社セイビ堂、竹林鋼機株式会社、Twelve Inc.
プロジェクトディレクター:椿昇
キュレーター:ヤノベケンジ
主催:一般社団法人グランフロント大阪TMO
2025年3月18日(火)- 2026年3月上旬
笹岡由梨子 Instagram
https://www.grandfront-osaka.jp/artscramble_exhibition
GRAND FRONT OSAKA
ART SCRAMBLE
https://www.grandfront-osaka.jp/artscramble_exhibition
おかけんた
1961年3月28日生まれ。1983年に漫才コンビ「おかけんた・ゆうた」を結成。1986年「第17回NHK上方漫才コンテスト」優秀賞、1997年「第32回上方漫才大賞」奨励賞、1999年「第34回上方漫才大賞」大賞など。
並行して、アート分野で活動を開始。1994年〜1995年「東京国際AU展」作品展示(東京都美術館 )。1995年株式会社スプーン公募展でグランプリを受賞。1996~1998年「OCHA(大阪コンポラリーヒューマンアート)」をプロデュース。2014年からは「京都国際映画祭~映画もアートもその他もぜんぶ~」 でアートプランナーを務めた。「ART FAIR TOKYO」アートトーク (2007年~2010年)、「ART OSAKA」イベントMC (2008年~2012年)、「草間彌生 永遠の永遠の永遠」 国立国際美術館 ギャラリートーク (2012年)、ギャラリーA-LABのアドバイザー(2015年~)、京都精華大学客員教授(2018~2020年)、「茨木映像芸術祭」審査員(2021年)、「Any kobe2022」トークイベント (2022年)などを歴任している。