おかけんたの「えぇ~アート」 # 17

Osaka Directory 9 Supported by RICHARD MILLE

KOURYOU

大阪中之島美術館 2階 多目的スペース

♪えぇ~ KOURYOU さんとの出会いは、カルチャーの拠点 である 喫茶店・・・ いや、喫茶店っぽいなにか 『EARTH』(大阪 西成区) 。EARTH のオーナーである 寺川大地 氏から、『瀬戸内国際芸術祭2019』で 陸に上がらず 海上で生活をしていた 漁民の 木造船 “ 家船 ” をモチーフにされた作品《EBUNE》の制作者 KOURYOU さんが、東京に帰る前にこっち寄られますので来ませんか?とお誘いを受け、いざ EARTH さんへ。

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EBUNE

お会いして即刻アート話になり、全員大盛り上がり。KOURYOU さん、気が付きゃ予約していた神戸発東京行きの深夜バスに間に合わない事態に。こりゃいかん!ということで、皆一斉に携帯で西成発のバスの予約を取ろうとするが、うまくいかない。四苦八苦の末に、無事乗車。KOURYOU さんのまわりをひとつにするお人柄に感動。そして、超アナログな自分に反省。そんなこんなで KOURYOU さんの足跡を辿りながら、その魅力に迫ってみたいと思います。

KOURYOU さんは福岡市生まれ。海から神社まで長い参道がある 筥崎八幡宮 とも呼ばれている 筥崎宮 近くで 『はこざき写真館』を営んでおられるご家庭の、3人兄弟の長女として産声を上げました。幼い頃からビデオで映画を見ては絵を描き、文房具に描かれた “ ウォーリーを探せ ” のように キャラクターたちが無数に登場する サンリオの人気アイテム『るるる学園』を真似て きのこの村 などを描き、一人遊び。
中学校ではバレーボール部に入部。弱小なのにスパルタ!高校時代は「絵が好きだから」ということで美術部に所属。そして高校2年生の時、美術部の先生のすすめで福岡の美術予備校に通います。

KOURYOU「デザイン科とかいろいろ分かれていて、入学したあと一番自由な創作ができるということを聞き、油絵科をチョイスしました」

その結果、東京の 多摩美術大学 に合格。よし、これで自由に創作活動ができる!と思いきや、最初は予備校と同じような授業ばかり。
2年生になると 具象クラス、抽象クラス、現代美術クラス とあり、

KOURYOU「作るのを自分で決められるのがいい!」

ということで、現代美術クラスをチョイス。ビーズやラメを散りばめたドレスやレリーフ作品などを制作されている 前本彰子 女史。そして、村上隆 氏や 奈良美智 氏と共に『ネオポップムーブメント』を起こされた 太郎千恵藏 氏 などという素晴らしい先生の下で、自由な学びを謳歌。自分がやりたいは何なのかを模索。地方から上京しなかなか友達ができなかったけれど、誘ってもらった シェアアトリエ アパート で友達ができ、やがて4人ユニット『サンガ』でもパフォーマンス作品を発表したり、旅行を漫画を共作したり。同級生は大学の屋上に掘っ立て小屋を建て、『やりみず美術館』と名付け展覧会を開催したり、そりゃもう大騒ぎさ。
この頃「何なの、この世界?」とも思い、美術評論家の 椹木野衣 氏のゼミでも勉強。大学時代はやりたいことの方向性が定まらず、結構辛い日々だったそうですが、4年生の頃に描きだしたシリーズの絵の評判は上々。
当時はあいまいな記憶の風景画を描いていたそうですが、ご本人曰く

KOURYOU「 デパートの屋上にある小さな遊園地やゲームセンター、変なスカスカな絵で、火事で燃えたとなりの家など、覚えておきたい印象的な風景を描いていたんですが、記憶にあるところだけを描いていくと変なスカスカの絵になって、それを面白がってもらえました」

進学の年、他大学からの入学は困難とされている、東京藝術大学大学院へ合格。グループ展を見に来てくれて「気になる作品」とメッセージを書いてくださった 櫃田伸也 氏の研究室へ。 奈良美智 氏や 杉戸洋 氏の先生でもある。作品の模索を続け、様々な連想を描かないままにしておく風景画から、別の世界がリンクする絵本や Webサイトでゲーム制作を開始。
数年後、愛知で行われた『であ、しゅとうるむ展』(2013年) に、Webサイト作品 “ クリックスピリット ” を発表。

KOURYOU「ゲームブックのようにページを行き来する絵本をつくったりしていたのですが、そこでやっていたことが一つの画面上でできて、仕組みから自分でできるのが楽しくて作品にしてました」

この時の出品者とつながりながら、様々な展開へと導かれていきます。梅津庸一 氏の パープルーム (parplume) では、Webサイトを担当。サイトマップのような形で再び一枚の絵の発表をし始める。ネットで表現活動をする作家を集めた 藤城嘘 氏などの『カオスラウンジ』では、インターネットの仕組みの元となるハイパーリンクの発明についての展示などを発表。2016年には、福島県いわき市 で行われた『カオスラウンジ新芸術祭』で、土地に眠る多くの民話や伝承を地図にした “ 『キツネ事件簿』いわき伝説ノート ” というWebサイト作品を発表。

KOURYOU「地元の詳しい方のトークを聞きに行ったら、仏像が浮いたとか、謎の崖、あそこから天狗が!とか、ワクワクする話が聞けて面白かった。実際の場所を調べていくと、小さな石碑があったり、何もなかったりすることもあるのですが。その土地を歩いたり、地図に描き込んで俯瞰して見たりすると、目には見えない地図ができあがるような発見がありました」

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《足元のスピリットデバイス(アプリ版「キツネ事件簿」開発に向けた設計図・模型)》2019年
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《足元のスピリットデバイス(アプリ版「キツネ事件簿」開発に向けた設計図・模型)》2019年

Web作品は評判を呼び、のちに原画「狐と龍の事件簿-いわき伝説ノート-」が 愛知県美術館 に収蔵されるという、嬉しいニュースも。

この頃から、土地に眠る歴史や伝承に興味を持つようになり、『瀬戸内国際芸術祭2019』では瀬戸内の島々のリサーチを行い、違う土地をつなぐ存在である海の民『家船』に興味をもちます。そこから、女木島に漂着して長い時間が積み重なっていることを想像した作品《家船》の制作へ。

KOURYOU「実際に多くの人と生活しながら、共同制作したのは初めて。一人ではできない作品だったので、声をかけた作家や、手伝いを申し出てくれた作家が色んな方を紹介してくれて、現地入りしたメンバー17名、地元の方と共に総勢約23名での共同制作となりました」

地元には様々な技能をもつ方や、美術作家の方もいて、木の曲げ方を教わったり、作品も見せてくれたりしたそうです。
そこで KOURYOU さんは考えた。
東アジアを巡った 家船 は、いろんな世界へと繋がっていった。移動する民・・・

KOURYOU「そうだ、移動させよう!」

画して《家船》改め《EBUNE》は各地へと漂着し、その 地域の方々 とも共同で制作しながら作品を発表。その大規模なアーカイブをかねた展示となるのが、大阪中之島美術館 2階 多目的スペース で開催されている 『Osaka Directory 9 Supported by RICHARD MILLE KOURYOU』。

水運で栄えた歴史をもつ大阪、各地から船が集まる、近世の蔵屋敷跡地にできた 大阪中之島美術館 で、多くの人・物・情報が船で運ばれてきた歴史と、EBUNE の活動を重ね合わせた展覧会。

私の記憶が正しければ、多目的スペース過去最大の展示ではないかと。

構成は

★瀬戸内国際芸術祭出品作品 家船アーカイブ
★EBUNE 佐賀・有田漂着 アーカイブ
★EBUNE 福岡・箱崎漂着 アーカイブ
★EBUNE 小豆島オカルトオリンピック / 淡路島漂着 アーカイブ
★EBUNE 大阪西成漂着 アーカイブ
★大阪港ヤソシマ会議
★G.EBUNE × あぐり 不死への航路【丄界】岐阜下呂漂着 アーカイブ

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EBUNE 佐賀・有田漂着 アーカイブ
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EBUNE 淡路島漂着 アーカイブ

この EBUNE で斬新なところは、漂着の順番が必ずしも物語の時系列順ではないこと。
『瀬戸内国際芸術祭2019』の 家船 から始まり、そこから『スター・ウォーズ』の episode 0 や episode 1 のように過去に遡ったり現代に戻ったり。以前のゲーム作品で、クリックするとどこに飛ぶか分からない 奇想天外 な展開にも似た仕事。

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EBUNE 大阪西成漂着 アーカイブ

大阪のJR新今宮駅周辺で9月開催されているカルチャーイベント『路地裏の舞台にようこそ2021』への参加をきっかけに、翌年の『路地裏の舞台にようこそ2022』では連携企画として、EARTH、3U、BAKURO の3ヵ所で行われた EBUNE 大阪西成漂着。EARTHでは1階 (喫茶店っぽいなにか) が船着場のお土産物屋さんとなり、奥の厨房を抜けて2階、3階、屋上とプライベートなスペースまでもが展示会場となり、EARTHの寺川代表が一体どこで寝ているのか?そんなことまでもが話題に。3U では屋台村のような風情を醸し出し、BAKURO では これまでの EBUNE 漂着 のアーカイブや作品などを展示。

KOURYOU「大阪は表現者の方がいっぱい!」

西成各所が エキセントリック な アート へと導かれました。

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大阪港ヤソシマ会議

こちらは新作で、大阪のジオラマであり、此花周辺に住む作家と共同制作した舞台美術でもあります。上町台地だったり、黒い箱が大阪中之島美術館だったり。個人的には実家近くにある、鎌倉時代に日本で最初に創建された灯台『住𠮷の高灯籠』があるのがゴキゲン。
で、この 《大阪港ヤソシマ会議》。土地に眠っている怨霊、謎の霊力、民話など大阪の文化にまつわる “ サイキック会議 ” を行っていて、議長は1928年に 『大礼記念京都博覧会』に出品された、東洋初のロボット『学天即』(レプリカ)。

KOURYOU「『帝都物語』にある、都市計画の会議みたいなものの大阪版を作りたかったんです。会議の様子は、映像でご覧いただけます」

映画『帝都物語』にも登場する 学天即 。所蔵されている 大阪市立科学館 からお借りし展示されたのが、ナント30年ぶり。
会期中にはパフォーマンスや、新作として制作中の大阪の地図の絵を追加搬入するイベントも予定されてるそうなので、楽しみ!
※日程などの情報は美術館Webサイトでご確認ください

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G.EBUNE × あぐり 不死への航路【丄界】岐阜下呂漂着 アーカイブ

こちらは昨年2024年に、北川フラム 氏がディレクションされたアートプロジェクト「南飛騨 Art Discovery」での展示アーカイブ。“ 不老不死 ” をテーマに壮大なパフォーマンスも繰り広げられ、来場者の度肝を抜きました。

いやぁー、実に スペクタキュラー な展覧会。

KOURYOU「大阪は面白い。文化や歴史の厚みがスゴい!皆さんも 大阪港ヤソシマ会議 をご覧になって、是非参加してみてください」

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展示風景

海の近くに育って、『るるる学園』で大量の情報を描くことが身に付き、現実でも大人数で制作をこなし、筥崎八幡宮で感じたであろう神聖な感覚がかたちとなり、EBUNE で大海原へと出港する。

近々、あなたの町へも EBUNE が漂着する日も近いかもしれませぇ~ん ♫

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KOURYOU さん

Osaka Directory 9 Supported by RICHARD MILLE

KOURYOU

大阪中之島美術館

会期 2025年1月25日(土)– 2月24日(月・祝)
休館 月曜日(2/24を除く)
開場時間 10:00 – 17:00
入場 無料

大阪中之島美術館 展覧会 Webサイト
https://nakka-art.jp/exhibition-post/osaka-directory-dir9/

Instagram
https://www.instagram.com/nakkaart2022?igsh=Znh3MGkxbWpnNW14

KOURYOU
EBUNE Webサイト
https://ebune.net/crew-kouryou/

Instagram
https://www.instagram.com/kouryou_pyon27?igsh=NG1hazJ5b2pqazIy

Thread
https://www.threads.net/@kouryou_pyon27

おかけんた
1961年3月28日生まれ。1983年に漫才コンビ「おかけんた・ゆうた」を結成。1986年「第17回NHK上方漫才コンテスト」優秀賞、1997年「第32回上方漫才大賞」奨励賞、1999年「第34回上方漫才大賞」大賞など。
並行して、アート分野で活動を開始。1994年〜1995年「東京国際AU展」作品展示(東京都美術館 )。1995年株式会社スプーン公募展でグランプリを受賞。1996~98年「OCHA(大阪コンポラリーヒューマンアート)」をプロデュース。2014年からは「京都国際映画祭~映画もアートもその他もぜんぶ~」 でアートプランナーを務めた。「ART FAIR TOKYO」アートトーク (2007年~2010年)、「ART OSAKA」イベントMC (2008年~2012年)、「草間彌生 永遠の永遠の永遠」 国立国際美術館 ギャラリートーク (2012年)、ギャラリーA-LABのアドバイザー(2015年~)、京都精華大学客員教授(2018年~2020年)、「茨木映像芸術祭」審査員(2021年)、「Any kobe2022」トークイベント (2022年)などを歴任している。