おかけんたの「えぇ~アート」#26

Open Storage 2025
KENJI YANOBE
LUCA︰THE LANDING

MASK(MEGA
ART STORAGE KITAKAGAYA)

♪えぇ〜 大阪 South Side の 住之江区に、加賀屋 という地域があります。私 おかけんた が えぇ声 で「オギャーーー」と 産声 を上げたのは、東加賀屋 の病院。還暦過ぎても、 わけわからん見切り発車 が多々ある 私 ですが、この時も 出産予定日 の 1ヶ月も前に産まれてしまい、体重も 1600g と 極低出生体重児(1500g未満) に近い 超未熟児。そのため、母親のお腹の中に近い環境を維持する 保育器 の中で育てられ、40日後 無事退院 。そこから 怒涛の虚弱体質人生が始まった!

つづく

って、手羽先みたいな顔 した私の幼少期の話なんてどぉーでもいいんです。話を戻します。
私にとって 加賀屋 は、発育を促してくれた ゆりかご のようなもの。
その 加賀屋 の North Side である 北加賀屋 に、巨大なアート作品が観られる “ 魅せる収納庫 ” MASK(MEGA ART STORAGE KITAKAGAYA )があります。
「大きな作品、作ってもらえませんか」 とアーティストに依頼があり、展示。その後困るのが、置き場所。それを一気に引き受けておられるのが、この MASK。MASK は、約1,000㎡の鋼材加工工場・倉庫跡 を、おおさか創造千島財団 が MEGA アート作品の収蔵庫 として活用。良き昭和の時代、造船業で栄えた 北加賀屋 には 多数の工場 がありましたが、時代の流れと共に閉鎖や移転などで空洞化が加速。「こりゃ、何とかせんと!」と立ち上がったのが、この地域で不動産業をされている 千島土地株式会社 の 芝川能一 社長(当時)。地域再生を芸術や文化で!と、北加賀屋 を 創造の拠点 と位置付けるべく、始動。それに携わる代表的なアーティストが、北野武 氏とのコラボや、大阪中之島美術館 に常設されている《ジャイアント・トらやん》や《SHIP’S CAT (Muse)》を制作された、ヤノベケンジ 氏。その ヤノベ さんの 2025年の最新作も含めた大型作品を、本展でドッカーンと一挙公開。MASK内に展示されている6人のアーティスト(持田敦子、金氏徹平、久保田弘成、名和晃平、宇治野宗輝、やなぎみわ)の作品とも相まって、そりゃもう大騒ぎさ!

画像①
展示風景

千島土地株式会社 の 芝川能一 氏は、ギャラリー や アートフェア などでよくお会いする 著名な コレクター。作品をコレクションされるだけでなく 作家の作品の収蔵庫までご提供され、工場の街 を アートの街 へと変遷させた立役者。
えっ、何ですか?
造船業の街が、どうやって 芸術・文化の街へと変貌していったかって?
分かりました。
ではキーワードとなる『造船業』から紐解いていきましょう。今回は私の個人的な話もあり、「大船に乗ったつもりで」というより、「小舟に片足ちょこんと乗せたつもりで」読み進めていただければ、ありがたやぁー。

1932年、木津川に面した 大阪市住之江区北加賀屋 の4万㎡という広大な敷地に、『株式会社名村造船所大阪工場』を設立。礎を築いたのは、創業者 名村源之助翁 。この当時 “ 造船大国ニッポン ” と言われる程 造船業 は盛んで、名村造船所 は1万総トン超船の建造で、業界の地位を確立。

1979年、設備を売却し 大阪工場を閉鎖。

1988年、製造の拠点を佐賀県伊万里市に移設。千島土地株式会社へ土地を返還。

〈えぇ余談〉
私の父 も 大阪市港区 にあった 造船所 に勤務し “ 沖修理 ” を担当。その船の大きさは超弩級!そこに親族が多く働いていた関係上、遊びに行ってはお小遣いを貰い、ポッケにしまってました。で、沖修理終わりに皆でお風呂に入るんですが、父や親族も含めた社員さんの筋骨隆々なこと!「みんなスゴいなぁ。羨ましい」とマジマジと見ていると、会社の偉いさんが「隆くん、そんな手羽先みたいにガリガリやったらあかんで。美味しいもん食べなさい」と、風呂上がりにまたお小遣いをもらう。私にとって社員風呂は お湯が沸く 場所 ではなく、お金が湧く 場所であったことは言うまでもない。

話を戻します。
千島土地株式会社 に未来を委ねられた 名村造船所大阪工場跡地 。その後 跡地 は、新たな船出 へと旅立ちます。

1993年、倉庫をリハーサルスタジオとしてリノベーションし、STUDIO PARTITA(スタジオパルティッタ) として 稼働。

〈えぇ余談〉
ビッグネームのシンガーの方もコンサートのリハーサルとして STUDIO PARTITA を使用。
現在もライブやパフォーマンスなど数々の公演が実施され、人気を博しています。

そして2004年、いよいよ アート へと 舵は切られていきます。

2004年、旧総合事務所棟 を中心に NAMURA ART MEETING ‘04―’34 VOl.00「臨界の芸術論」を開催。

画像②
旧総合事務所棟

これは、30年間 名村造船所跡地 を アートの実験場 として使用する という、壮大なプロジェクト。

9月24日17:00、1.8mの巨大なミラーボールがライトアップされ、19:00からは 実行委員 の小原啓渡、松尾惠、高谷史郎、木ノ下智恵子 による フォーラム『NAMURA ART MEETING とは?』。
21:00からは、実行委員 が モデレーター を務めた〈真夜中ミーティング〉

PART1:『文化芸術は経済の起爆剤となり得るか』
パネリスト 橋爪紳也(建築史家)他。

PART2:『知的産業者達の密かな企み』
パネリスト 服部滋樹(”graf” 代表)他

PART3:『身体・都市・アート』
パネリスト 松本雄吉(『維新派』主宰)他

終了後の25日も、フォーラムが行われた Drafting Room(ドラフィティングルーム) では 中国東北部瀋陽 にある 鉄西区 の 工場、街、鉄路 の三部構成で描いた9時間の長編ドキュメンタリー『鉄西区』の上映。
浅田彰(批評家)、岡崎乾二郎(美術家・美術評論家)、椿 昇(コンテンポラリー・アーティスト)他による、3部構成の対談『臨海の芸術論』。それに DJ:TOWA TEIを迎えた クラブイベント ” NAMURANITE” や、 “graf” による 屋外リビングルーム など、大阪ではなかなか見ることが出来なかったコンテンツが大半。
   
〈えぇ余談〉
フォーラムが行われた 4Fの 旧製図室 ドラフィティングルーム、その広さは圧巻。約1,200㎡ 、 間口20m、奥行60m で、船の部品そのもののサイズをここで図面に起こしていたというから驚き。最初「天井低いなぁ」と思っていたのですが、それは製図にライトが当たりやすくするため。床には図面の痕跡が見受けられ、ガランとした室内の蛍光灯がインスタレーションのように配置され、活気に満ちていた頃の光景をイマジネーションし、1人ニヤニヤしていたことを覚えています。

2007年、経済産業省の『近代化産業遺産』に認定。これを期に、旧事務所棟 をイベントスペースへとリノベーション。
敷地内の BLACK CHAMBER(ブラックチェンバー)、 STUDIO PARTITA、そして野外のエリアをまとめた 『クリエイティブセンター大阪』が誕生。

2009年、アーティスト や クリエーター 等へ活動の場を提供すべく『北加賀屋クリエィティブ・ビレッジ構想』を提唱。

この年 クリエィティブセンター大阪 では『すみのえミュージックフェスタ』(2009―2011)が行われ、2012年には『すみのえアートフェスタ』を開催。その時、水面に浮かばせていたのが『水都大阪2009』で衝撃のデビューを果たした、Florentijn Hofman(フロレンティン・ホフマン) の、黄色いアヒルの超大型作品《RUBBER DUCK》(ラバーダック)。

画像③
《RUBBER DUCK》(ラバーダック)

2013年、住之江区のビッグイベントとなった『すみのえアート・ビート』が開幕。
さらに

2014年、満を持して MASK(MEGA ART STORAGE KITAKAGAYA ) が オープン。

この頃になると周辺に 飲食店 や ショップ が軒を連ね、現在ではアーティストやクリエーターのアトリエ、NPOやミュージアムなど50ヵ所の拠点が点在し、屋外でアート作品にも出会えます。
そして今年は、クリエィティブセンター大阪 開設 から20年という節目の年、

MASK Open Storage 2025
KENJI YANOBE
LUCA
THE LANDING

MEGA
ART
STORAGE
KITAKAGAYA

を開催。

画像④
《LUCA(ルカ)号》
2024
バルーン、FRP、鉄
860×630×230cm

東京 銀座 GINZA SIX の吹き抜けに9月6日まで展示されていた インスタレーション、《BIG CAT BANG》。
そのうち、 猫耳のある 太陽の塔型宇宙船 《LUCA(ルカ)号》を クラウドファンディング で 北加賀屋 に着陸させるプロジェクト『ヤノベケンジ:LUCA LANDING』 を決行。目標を上回る金額で 移設達成!
LUCA号は、太陽の塔 のある大阪へ 無事着陸。会期終了後は解体、分解され、一部が返礼品として支援者の元へと届けられます。
そんなLUCA号には、こんな物語があります。

★始まりは爆発。多くの宇宙猫を乗せた宇宙船『LUCA号』は宇宙の彼方へと吹き飛ばされ、まだ生命体のいない地球へと着陸。

ひとりの猫「さぁみんな、いのちの種をまこう!」

宇宙船から大量の宇宙猫が飛び出す、BIG CAT BANG。宇宙猫は海にいのちの種をまき、やがて原生生物が生まれ、カンブリア紀には多数の種類の生命が誕生し、恐竜たちの成長も優しく見守りました。平穏な日々もつかの間、隕石の衝突、火山噴火、巨大な津波、氷河期 ⋯。そんな最中でも宇宙猫たちは我慢強く『いのちの樹』を植え続けていると、地球はいのちでいっぱい。この頃になると宇宙猫は疲れ果て、目の前に現れた人間を見て一言

「よし、任務は完了!」

任務は完了しても、宇宙船を動かす燃料がありません。力尽きて倒れていく、宇宙猫。ついに LUCA号 の猫耳も取れてしまいます。
そして現代、300種類以上存在するといわれている猫。ひょっとしたらあなたのそばにいる猫は、宇宙猫の生き残りかもしれません。

※参考文献
ヤノベケンジ Instagram
『BIG CAT BANG ― 宇宙猫の大冒険 ―』

画像⑤
《SHIP’S CAT(Island)》
2025
ミクストメディア
インスタレーション(サイズ可変)

ハイパーミュージアム飯能オープニング企画展

ヤノベケンジ
宇宙猫の秘密の島

3月1日にオープンした ハイパーミュージアム飯能 で、湖に展示された 眠り猫の浮島 。

画像⑥
《SHIP’S CAT(Island)》
展示風景

内部は秘密基地のような空間で、宇宙猫のアイテムがずらり。ナント、お風呂まであります。

この《SHIP’S CAT(Island)》と《LUCA(ルカ)号》がほぼ同時期に会期終了となり、今回の MASK での 展覧会 が実現。素晴らし過ぎます。

画像⑦
《SHIP’S CAT(Speeder)/ SHIP’S CAT(Crew / White)》
2023
電気自動車、FRP、ステンレススティール、他 / FRP、ステンレススティール、他
110×205×440 / 105×40×80cm

彫刻 としては 世界最速 !といっても過言ではない、この作品。ボディは目の覚めるような朱色。

「SCスピーダーの朱色は鳥居と同じ魔除けの色。魔を切り裂くようにこの世界を疾走していきます。皆様に幸あれ。」

※ヤノベケンジ Instagram より抜粋

画像⑧
《SHIP’S CAT(Ultra Muse / Red)》
2024
ステンレススティール、FRP、LED、他
390×360×410cm

目がグリーンに光ってるところが神々しく、ミューズに命が吹き込まれたっぽくていいですよね。

画像⑨
《サン・チャイルド No.2》
2011
FRP、鉄、ネオン、他
620×444×263cm

サン・チャイルド は、阪急沿線 の 南茨木駅 ロータリー のところにも2012年から設置されていて、その 除幕式 の イベント で MC を私 おかけんた がさせていただいた、思い出深いシリーズ。チェルノブイリの原発事故から《アトムスーツ・プロジェクト》がスタートし、ヤノベ さんのお父さんをモチーフにされた、放射能感知服を着用した《トらやん》 が人気を博し、《サン・チャイルド》や《ジャイアント・トらやん》へと、そのコンセプトは受け継がれていきます。

〈えぇ余談〉
私がアートプランナーを務めていた、『京都国際映画祭』。その初年度の2014年に ヤノベケンジ、明和電機、石橋義正 の3名と共に 『ジャイアント・オタマトーン』という胴体が ヤノベ さんの ジャイアント・トらやん 、顔が 明和電機 さん のオタマトーン と、巨大な作品を制作。パフォーマンス全般は、石橋義正 さんが担当。場所は、京都市役所前広場。この当時、火を噴く ジャイアント・トらやん の パフォーマンス が国内各所で行われ、話題に。故に、京都でもどうしても火を噴かせたかったんですが、以前あるアーティストが火を使ったパフォーマンスをされて以来、この場所では火気厳禁。半年間に渡り交渉しましたが、答えはNO。その時 最後の切り札 となったのが、ヤノベさんが今まで実施してきた火噴きパフォーマンスの詳細な資料 & 巧みな交渉術。その甲斐あって、結果は バッチリ OK!
いやぁー ヤノベさんの交渉術 、とても勉強になりました。えっ、噴射はやったのか?って。もちろん ガンガン 噴かせていただき、次の年に展示する テオ・ヤンセン 作品の打ち合わせに行った時に言われました。「今年は、火噴かないんですか?」って。

画像⑩
《ラッキードラゴン》
2009
アルミニウム、FRP、他
1,000×450×1,530

こちらも 火を噴く 作品。《ラッキードラゴン》は、1954年に ビキニ環礁 での水爆実験によって被爆した漁船、第五福竜丸 を題材にされた大型アート船 。

《えぇ余談》
ラッキードラゴン は『水都大阪2009』に登場し、ラバーダック と共に超話題に。 その ラッキードラゴン に 中之島 から乗船 し、私 おかけんた とヤノベ さんとトークをしながら 大阪の川を巡航する イベント があり、その 折り返し地点となったのが 名村造船所大阪工場跡地 。結局私ばかり喋りまくってしまい、ヤノベさんのお話を聞きたかった皆さまにはご迷惑をお掛け致しました。反省⋯。

あと、名村造船所大阪工場跡地には サウナ も登場。《SHIP’S CAT SAUNA》内にあるヤノベ作品で、心身ともに 整ってみてはいかがでしょうか。

水の都、大阪。それを55年前から見守ってきた 太陽の塔 。《LUCA(ルカ)号》とその物語 『BIG CAT BANG』は、太陽の塔 の制作者 である 岡本太郎 氏からいただいた イマジネーションの種。

米国の哲学者、政治家 の William John Bennett(ウィリアム・ジョン・ベネット)氏は、こんなことをおっしゃっています。

★幸福は猫に似ている。
こっちへおいでと呼んでも、おだててもそっぽを向くばかりで、決してやって来ないが、そいつに頓着せず自分のすべきことをしていれば、いつのまにかこちらの足に擦り寄ってきて、膝の上に飛び乗ろうとするものだ。

※William John Bennett(ウィリアム・ジョン・ベネット)の名言 引用

ヤノベさんの膝の上にちょこんと飛び乗ってきた宇宙猫、 SHIP’S CAT。明日は喉をゴロゴロと鳴らしながら、あなたに擦り寄ってくるかもしれません。

画像⑪
展示風景

MASK の 屋根の上にも 、ちょこぉ〜ん♬

画像⑫
MASK 風景

Open Storage 2025
KENJI YANOBE
LUCA︰THE LANDING

MASK(MEGA
ART STORAGE KITAKAGAYA)

2005.10.3[fri]~10.5[sun]、 10.10[fri]~10.13[mon] 、 10.17[fri]~10.19[sun] 、 10.24[fri]~10.26[sun] 、 10.31[fri]~11.3[mon]  

12:00−18:00

※特別開館 11.9[sun]

問い合わせ
一般財団法人 おおさか創造千島財団
〒559-0011大阪市住之江区北加賀屋2丁目11番8号
TEL 06-6681-6170 / FAX 06-6681-6188/Mail maskmask@chishima-foundation.com

MASK
site
https://mask.chishima-foundation.com/

おおさか創造千島財団
Instagram
@chishima-found

ヤノベケンジ
site
https://yanobe.com/

ヤノベケンジ
Instagram
kenji_yanobe

おかけんた
1961年3月28日生まれ。1983年に漫才コンビ「おかけんた・ゆうた」を結成。1986年「第17回NHK上方漫才コンテスト」優秀賞、1997年「第32回上方漫才大賞」奨励賞、1999年「第34回上方漫才大賞」大賞など。
並行して、アート分野で活動を開始。1994年〜1995年「東京国際AU展」作品展示(東京都美術館 )。1995年株式会社スプーン公募展でグランプリを受賞。1996~1998年「OCHA(大阪コンポラリーヒューマンアート)」をプロデュース。2014年からは「京都国際映画祭~映画もアートもその他もぜんぶ~」 でアートプランナーを務めた。「ART FAIR TOKYO」アートトーク (2007年~2010年)、「ART OSAKA」イベントMC (2008年~2012年)、「草間彌生 永遠の永遠の永遠」 国立国際美術館 ギャラリートーク (2012年)、ギャラリー A―LABのアドバイザー(2015年~)、京都精華大学客員教授(2018~2020年)、「茨木映像芸術祭」審査員(2021年)、「Any kobe2022」トークイベント (2022年)などを歴任している