LAUGH & PEACE ART GALLERY主催アートコンペLPAC2025 グランプリ受賞記念 CHIE個展「FOPPISH GIRL – あさぼらけ –」
LAUGH & PEACE ART GALLERY
♪えぇ〜 北海道 での仕事は大好物 ! 今から30年程前になりますが 札幌の若手芸人が競うイベント があり、我々 おかけんたゆうた や ハイヒール・リンゴ などが審査員を務めることに。その時、一際 パワフル で テンポのよい 高校生コンビ が登場!その2人こそ、 言わずと知れた人気コンビ『タカアンドトシ』。「いやぁー、北海道からどえらい高校生が出てきたなぁー」 そんな思いを抱きながら 仕事終わり、美味い!と情報誌に書かれていたラーメン屋さんに直行。ラーメンを堪能した後、飛行機の時間までまだ少し余裕があったので、札幌の街をブラブラ。そしたら、若い女性2人組 が私を見て 指を指している ではないか!「あっ、イベントに来てくれたお客様やなぁ。札幌で顔さして、嬉しいなぁー」と上機嫌になっていたところに、その女性が一言。
「ラーメン、シャツに付いてますよ」
ガクっ。
その後新千歳空港に着いても、シャツからほのかに ラーメン臭 が香っていた事は言うまでもない。
そんな北海道で、作家活動をされている 女性アーティストの CHIE さん。CHIE さんは、今年1月 私 おかけんた と ギャラリースタッフ が 審査を行った LAUGH & PEACE ART GALLERY 初となるアートコンペ『LPAC2025』にて、グランプリを受賞。本展は、その特典となる 受賞記念展。

《こんな夢をみた》
キャンバス、ゲルインクペン
1000×1000×25mm
CHIEさんは札幌生まれ、兄、CHIE、弟という3人兄弟の長女。3歳の頃 から スキー をやり始め、幼稚園 が 体育会系の施設 がある館内にあり、プールにも通っていたという 活発な女の子。
CHIE「外出してもずっと喋ってるし、怒られるとすぐ泣く子でした」
お喋りキャパオーバー系 の 子だったんですね。
小学生になると、リカちゃん人形 遊びや 、知り合いのお姉さんが描く女の子の絵を真似して描いたり。
CHIE「カワイイなぁーと思い、描いてました」
お母さんが 手芸 や 紙粘土 で女の子を作ったりされてて、そのあたりも影響してるのかもしれません。
「あぁー これでご両親からも、女の子らしくなってきたねぇー、って言ってもらえる」
取材しながらも、そう思った私は次の質問へ。
「休みの日は何してたんですか?」
CHIE「家にいて、テレビで 好きな マッチ(近藤真彦) や 南野陽子 を見て、ひたすら踊ってました。」
おっ、スキーのパラレルのようにリズムにノッて
CHIE「リズムにのれてないのに、ずっと」
えっ!?
CHIE「外でも」
マジっすか!
こりゃ 活発 というより快活 、 ダンシング オール ズレてる系。
中学校での部活は 陸上部 。練習なしでいきなり大会で 800m に出場。結果は、ビリ。がしかぁーし、そんなこともなんのその。劇団四季 の『キャッツ』を観に行き感銘を受け、こりゃまた 踊る 大猫踊り系 へと移行。
CHIE「ミュージカル俳優になりたい!それくらいの勢いでした」
ターニングポイントとなったのは、女子高時代。洋楽のことが全く理解していなかったが、ジュークボックスで Run−D. M . C(ラン・ディーエムシー)を聴いて以来、 HIPHOP にドハマり。またまた、踊っちゃえぇー系 へと真っしぐら。授業では『書道』か『美術』という 選択授業 があり、無論『美術』をチョイス。授業内容は、模写からスタート。まわりが風景画を描く中、CHIE さんが模写していたのは、棟方志功 の 女性像 。先生も広い心で見てくれて「好きにしていいよ」と言われ、絵を描く楽しさ に、目覚めていった。
それから高3の時、古着屋さんの商品で見た ストリートアートの先駆者 と言われている Keith・Haring(キース・ヘリング)の『ACt Against AIDS 93』(アクトアゲインストエイズ 93)のマークに出会い、衝撃を受けます。そして、ポップアート の代表的アーティスト
Roy Lichtenstein(ロイ・リキテンスタイン)の作品にも大感動。
CHIE「これもアートなんだ!」
と、書店で 関連本を見まくり。
CHIE「描こうと思っても、真似できませんでした」
歌で踊り系 から、アートで胸踊り系 へとインスパイアされていった瞬間でした。
「高校卒業したら、絵を描く学校に行きたい!」と、方向性を見出した CHIE さん。夏休みには デッサン教室 に通い、見事 芸術工学部 デザイン学科 がある大学へと進学。
えっ、デザイン学科? 油画系ではなく?
CHIE「デザインと芸術は一緒だと思ってました」
入学後、授業で デッサン を描き始めるが、どうも上手くいかず 皆との差がつくばかり。2年生の時「特異なものを作らないと。そうだ、キャラクターを作ろう!」と、動物のようなものを描き始めるが、どこか可愛くない。次に 男の子と女の子 の 友達シリーズ に挑戦するが、これも可愛くなく しっくりこない。そんな時 ふと思い付いたのが、その女の子の顔に紙袋を被せ、包丁を持たせる というキャラクター。これが功を奏し、友だちにも「いいね!」と大好評!!
《FOPPISH GIRL》(フォピッシュガール)の誕生である。
『FOPPISH』は【おしゃれな】という意味で、絵はカラーの FOPPISH GIRL が単体で立っているもの。「包丁を持った女の子、これはいい!」と思って本屋さんに行った時、奈良美智 さんが包丁を持った女の子をモチーフにされた作品があることを作品集で見て、「先にやられてた」と、ちょっぴり TAMEIKI GIRL。
3年生になると空間デザイン、 製品デザイン、グラフィック のどれかを選択しなければならないということで、迷わず グラフィック へ。
4年生では、
卒展の告知ポスター を、グラフィックデザイン専攻の生徒のデザインから選抜する事になりましたが、残念ながらデザインが選ばれることはありませんでした。卒業制作の方は、FOPPISH GIRL を用いなかった AIDS に関する冊子とポスターを出展。キース・ヘリングに出会った事がキッカケで、制作されたそうです。
卒業後、道内の 印刷会社 デザイン部 に入社し、挿し絵 を担当。帰宅後は、ひたすら B5サイズ の ケント紙 に ゲルインクペン で、紺色、緑色、茶色(のちに紺一色)の FOPPISH GIRL を描く日々。発表するなんて滅相もない!と、謙抑さを覗かせながらも
CHIE「観てもらい、いいね!と褒められたくて」
大学時代に友だちから「いいね!」と言われたことが忘れられない自分が、そこにいました。
そんなある日、川崎の 川崎市岡本太郎美術館 で行われた「岡本太郎現代芸術賞展」で展示されていた 目玉焼きのインスタレーション を観て、「こんなのもアートなんだ」と感じ、友だちからも「出してみればいいじゃん」と言われ、「絵もたまってきたし、展示をしてみたい。けど、やり方がわからない」
変わるキッカケになるかもしれない と、週一で アートスクール に通い始め、ここで有名作家の講義やワークショップなどで表現を学びます。
1年後の卒展。水槽の上に、アクリルボードにプリントした FOPPISH GIRL たちがサーフィンをしている作品を置き、下から空気ポンプで ブクブク させている作品 《Image》 2010 を発表。

《Image》 2010
皆から「おもしろい!」と、大好評。アクリルボード は B4サイズ 程度の作品を展示していたのですが、それを観て あるオジサン からこんなアドバイスが。
「大きいのも描いてみなよ」
今まで大きくても B4サイズ しか描いたことがなかった CHIEさん 。それもそのはず、今まで “ 描く ” という行為に特化し、空間を意識した “ 制作 ” という概念は存在しなかった。大作は代表作にも繋がる場合が多く、コレクターも欲しがるんです。
そして2011年、縦1m 横2m の大作を含めた 初個展
いままでいま、ここから(salonsalon cojica/北海道、札幌)
を開催。アドバイスしてくださったオジサンも駆け付け、一言「ほら、よかったでしょ!」
背景を2枚のキャンバスを繋ぎ合わせることにより、今までワンシーンしか描いてこなかったものが多方面から観れるようになった、記念すべき作品。
CHIE「オジサンには感謝しています」
大作も描くことができ、準備万全。満を持して 公募展『第 15 回岡本太郎現代芸術賞展』(川崎市岡本太郎美術館)に4枚綴りの4mの大作で初チャレンジ。結果は、入選!

第15回岡本太郎現代芸術賞展
入選作品
川崎市岡本太郎美術館
2012年
《いままでいま、ここから。これから》
写真:川崎市岡本太郎美術館
会期中、忘れられない出来事が。
CHIE「最終日のトークの時、小さい男の子が『絵に影響を受けて、絵を描いてきました』と包丁を持ってる女の子を、キラキラした目で見せてくれたんです」
これは思い出深いエピソード!その男の子も絵を見てもらったことは、一生忘れないでしょう。
その後は、国内外で展示依頼が続々と。FOPPISH GIRL の快進撃は もう どうにも止まらない 系!
2012年 つなげるかさなる(D&D DEPARTMENT HOKKAIDO by 3KG/北海道、札幌)
2012年 つなげるかさなる(Pepper’s Gallery/東京、銀座)
2013年 ドアをさがして(ATTIC/北海道、札幌)
2013年 JART 3rd(WAH Center/New York、ブルックリン)
2014年 JART 4rd(WAH Center/New York、ブルックリン)
2014年、川崎市岡本太郎美術館 の 学芸員の方 から、「関西のコレクター の方が ディレクション される グループ展 のお誘いがありますが、どうされますか」と連絡があり、大阪にも興味があったので参加してみることに。展覧会は、以前コラムでも書かせていただいた南船場の真っ赤なビルでの開催。

2014年『our favorite』 展示風景
(浜崎健立現代美術館/大阪、南船場)
CHIE「近くに大きなリキテンスタイン の壁画があり、ビックリ!」
そこで、私は始めて CHIE さんとお会いし、作品を鑑賞。展示は、大小の円形の作品が全体的に POPさ を演出し、壁にまで描かれた FOPPISH GIRL は 絵巻物的な要素 があり、とても楽しめたことを覚えています。
この日は展覧会初日だったんですが、初日や週末にドリンクやケータリングを来廊者に振る舞う レセプション が催されたりします。この日も レセプション があり、私は2次会まで参加。私が CHIE さんにお酒を勧めると「ウフっ!」 と笑いながら、飲みまくっていたのが印象的でした。多分、大人に成長した FOPPISH WOMAN が体内で増殖し、入れ替わり立ち替わり 飲みまくってる!? って、そんなわけないわにぃー。
その時、グループ展を観に来られていた Nii Fine Arts の 新居さんの目に留まり、展覧会やアートフェアでの展示を実施。

2015年 『ART OSAKA 2015』
Nii Fine Arts ブース
(ホテルグランヴィア大阪)
ホテルの客室のバスルームを展示スペースとして与えられたのですが、これがターニングポイントとなりました。
CHIE「シールを貼るのに、お風呂場 という 壁以外の室内 でやるのは始めて。これを期に “ 遊ばせる ” という感覚が大きくなりました」
FOPPISH GIRL たちを遊ばせる。それ以降 北海道内各地、東京、三重、広島、ソウル(韓国)、プノンペン(カンボジア)、京都、鹿児島 と おでかけ FOPPISH GIRL。
CHIE「2015年の個展『明日にこんにちは』(space1−15/北海道、札幌)で展示させていただいた時、病院の夜勤終わりの看護師さんが作品を観て『辛いものが消化できたような気がした』と言ってくれたことが、印象に残っています」
アートが処方箋、素敵なお話ですよね。
そして、今回の展覧会
LAUGH & PEACE ART GALLERY主催アートコンペLPAC2025 グランプリ受賞記念 CHIE個展「FOPPISH GIRL – あさぼらけ –」
タイトルの “ あさぼらけ ” とは、夜空が薄っすらと明るくなる頃、夜明け前 という意味。
CHIE「自分自身、ちょっと変わってきたな と思うことがあり、明るくなってきたんです」

《むかえるままに》
木製パネル、ゲルインクペン
530×1590×25mm
※中央の作品
生まれた頃から小学校、中学校へと進んでいき、これから先どう進んでいくか?死生観を表現した作品。

《むかえるままに》
部分アップ
小さい頃、ローラースケートで遊んだことなどが描かれています。

《Revolution》
木製パネル、ゲルインクペン
530×530×25mm
《穴》という作品の一部分を木製パネルに描いたもので、モチーフは『レ・ミゼラブル』のワンシーン。ミュージカル好きが、垣間見れますよね。

上から
《アナコンダ》
《アナリシス》
《アナスタシア》
《アナザースカイ》
キャンバス、ゲルインクペン、リキテックス、ニス
150×150×15mm
壁面に、通り抜けできる穴のイメージをシールで表現されているんですが、これはその “ 穴 ” を “ アナ ” にかけた4作品。

《朝が明ける》
紙、ゲルインクペン
450×450×20mm
CHIE「展示させてもらえる事が決まり、展示イメージやワクワクする気持ちとか、札幌から大阪へと繋がっていく姿を描いています。入り口の大きな作品とブランコ、壁で遊んでいる娘がいたり、高島屋からギャラリーへと向かう道とかです」
高揚感と、ロードムービーのような躍動感を FOPPISH GIRL に投影された作品なんですね。

壁面の FOPPISH GIRL
今回の展覧会について、うかがいました。
CHIE「まず、コンペが楽しかった!ギャラリーはカーブがあり視覚的に面白い空間で、入口の穴の空いた壁とかは他にはない。あの娘をどうやって遊ばせるか?どうやったら可愛く見えるか?思う存分できた。だからいつもより多めにはしゃいでる感じがしますし、作品が喋ってる!」
確かに ざわめき が聞こえてきますし、いつの間にか壁に ポコっと 穴を空けて、ヒョッコリ と顔を出してきそうな気配を感じます。
最後に、メッセージをいただきました。
CHIE「自分のお気に入りの娘を見付けてください!」
子供の頃 ひたすら踊ってた女の子 が ミュージカル俳優 に憧れ、キース・ヘリング のモチーフに惹かれたことが FOPPISH GIRL というキャラクターを生み、作品から飛び出した娘たちが無邪気に遊戯三昧。
そして作品1点1点がステージとなり、支持体から溢れ出した FOPPISH GIRL が空間全体をアリーナと化し、壮大な ガールズ ミュージカル へと変貌。
本展は、ミュージカル俳優 に憧れていたご本人の セルフポートレート なのかもしれません。
CHIE さん、あらためて『アートコンペLPAC2025 』グランプリ受賞 おめでとうございます。そして、素敵な展覧会を ありがとうございました。最後に、この言葉を捧げさせてください。
「いいねぇ〜!」♫

展示風景
LAUGH & PEACE ART GALLERY主催アートコンペLPAC2025 グランプリ受賞記念 CHIE個展「FOPPISH GIRL – あさぼらけ –」
LAUGH & PEACE ART GALLERY
会 期:2025年9月4日(木) − 9月14日(日)
時 間:13:00 − 18:00
定休日:火・水曜日
入場無料
会 場:LAUGH & PEACE ART GALLERY
( 大阪市中央区難波千日前3 − 15 吉本本館1F)
変わること、変わらないこと。どちらも大切で、どちらもわたしの想い。
いままでと今、そしてここからの″FOPPISH GIRL″と、ココで遊びまわります。
夜はもう、明ける。
CHIE Webサイト
https://foppishgirl.net/
Instagram
https://www.instagram.com/foppishgirl.by.chie?igsh=NDlmZzFrM3l1dTZs
LAUGH & PEACE ART GALLERY Webサイト
https://laugh-peace-art.com/
Instagram
https://www.instagram.com/laughandpeacegallery?igsh=NzRrNnE2dDRlcjY0
おかけんた
1961年3月28日生まれ。1983年に漫才コンビ「おかけんた・ゆうた」を結成。1986年「第17回NHK上方漫才コンテスト」優秀賞、1997年「第32回上方漫才大賞」奨励賞、1999年「第34回上方漫才大賞」大賞など。
並行して、アート分野で活動を開始。1994年〜1995年「東京国際AU展」作品展示(東京都美術館 )。1995年株式会社スプーン公募展でグランプリを受賞。1996~1998年「OCHA(大阪コンポラリーヒューマンアート)」をプロデュース。2014年からは「京都国際映画祭~映画もアートもその他もぜんぶ~」 でアートプランナーを務めた。「ART FAIR TOKYO」アートトーク (2007年~2010年)、「ART OSAKA」イベントMC (2008年~2012年)、「草間彌生 永遠の永遠の永遠」 国立国際美術館 ギャラリートーク (2012年)、ギャラリー A―LABのアドバイザー(2015年~)、京都精華大学客員教授(2018~2020年)、「茨木映像芸術祭」審査員(2021年)、「Any kobe2022」トークイベント (2022年)などを歴任している。