サバンナ八木 x レイザーラモンHG「未確認生物図鑑」を読んで
ピストジャム(芸人)
サバンナ八木さんの頭の中に住んでいた奇想天外な未確認生物100体が、この世に解き放たれた。それらをイラストに収めたのはレイザーラモンHGさん。HGさんはプロレス仕込みの体幹の強さで彼らを見事にキャッチして、ユーモアあふれるかわいげあるキャラクターに描きあげた。
本を開くと、左ページに未確認生物のイラスト、右ページにその未確認生物の生態レポート、レアレベル、生息地マップ、八木さんのオリジナルスケッチが載っている。
イラストは、正方形の中に未確認生物の名前とキャラクターが収められていて、子どものころに親しんだビックリマンシールを彷彿させる。どのイラストも配置と色のバランスがすばらしく、見とれてしまう。伸びやかな線で描かれた未確認生物たちは、みな生命を吹き込まれたように生き生きとしていて、見ているだけで心が躍る。
八木さんが書かれた生態レポートは爆笑必至。普通、図鑑の解説文といったら味気ない文章でスペックなどが淡々と書かれているにすぎないけれど、この生態レポートは愛情がそそぎ込まれまくっている。一つひとつが、その未確認生物たちの物語になっているのだ。しかも、そのストーリーのテイストもさまざまなパターンがあって読者を飽きさせない。
たとえば、No.013「しろべえ」の生態レポートは「どこまでも白い。白すぎて、何を考えてるか、意思が読み取れない」という書き出しから始まる。これはもはや純文学。
No.026「くばりん」は、「両手がめちゃくちゃ安定している。グラスいっぱいに入れているドリンクもこぼさない。(中略)くばりん1人で5人分くらいの働きをする。そのため、バイト代は、5倍もらっている」と書かれている。思わず笑みがこぼれる。これは想像を超えてきた。そう、くばりんは未確認生物なのにバイトしているのだ。
ちなみに僕のお気にいりは、No.037「もちねずみ」。「もちねずみは家の中を走り回ったあと、家の外に出て雪の中に消えていく。もちねずみに会いたくて探すが見つからない。もちねずみかと思うと、それは雪の塊。もう会えないかと思い、少し寂しい気持ちになる。年を越し、また寒い時期がやってくる。もちを焼いている時に目を離すと、気がつけば焼きすぎてしまった。また出会えたね、もちねずみ」。こんな終わりかたの解説文なんて読んだことがない。心にしみて余韻があるのに、しっかりおかしみも含まれている。これだけで「また出会えたね、もちねずみ」という絵本がつくれそうだ。
この図鑑にハマりすぎて、僕は幻視を見るようになってきた。配達のバイト中、バイクの横を「くるくるドラゴン」が猛スピードで追い越していったり、坂の上で「ターテ」が待ち構えていたり、電柱の影から「バネスター」がぴょこんと飛び出してきたりするのを目撃したような気がした。
思えば、子供のころはいつもそんな日常をすごしていた。水木しげる先生の妖怪図鑑を怖がりながら読んでは、身のまわりのどこかに妖怪たちが潜んでいるんじゃないかと常に探し歩いていた。
2005年に八木さんが出版された『ぼくの怪獣大百科』(扶桑社)という本がある。この本には八木さんが生み出した怪獣100体がご本人のイラストで掲載されているのだが、巻末の「あとがきにかえて」のところで怪獣を描くきっかけについて、以下のように語られていた。
「いつも公園にランニングに行くねんけど、そんときに10周くらい同じコースを走るのよ。すると、ひまになりすぎて現れてくるのよ、前から怪獣が」
なんと……八木さんは、実際に見ていたのだ。怪獣を机に向かって頭を抱えながら生み出したわけではなく、はっきりとランニング中に目撃していたのだ。
もしかしたら、僕が街なかで目にしたかもしれないと思っていた未確認生物たちは、幻視や見間違いなどではなく、そこに実在していた可能性がある。
『未確認生物図鑑』は、大人を子どもに戻してしまう「禁断の書」かもしれない。鳥山明先生が描くドラゴンクエストのモンスターのように愛らしい未確認生物たち。すでにトレーディングカードは発売されているというし、封印していたはずの収集癖まで復活しそうで怖い。 八木さんとHGさんの最強タッグは鬱々とした世の中を吹っ飛ばし、日々を明るく楽しく元気に変えてくれる本を誕生させた。本からみなぎるパワーがあふれているので、ぜひ手に取ってその力を感じてほしい。
ピストジャムオリジナル未確認生物「ブッくん」